こんな手合いがオーマイニュース編集長だったという笑い話

記者クラブを楯にして新聞を有料化しようと企てる人たち

 元週刊現代編集長で、ついでに言えば元オーマイニュース編集長でもある元木昌彦氏の週刊誌は死なず (朝日新書)という新刊を読んだ。この中に、「ネットの影響を受けているのは新聞も同じである」として次のようなくだりがある。すこし長いが引用しよう。

 しばらく前に、朝比奈豊毎日新聞社長と若宮啓文朝日新聞元論説主幹と話す機会があった。私は、こうした人たちと会う時、必ず聞いてみることがある。それは「どの新聞社もネットを充実させればさせるほど紙の部数が落ち込んでいることで悩んでいる。ここら辺で、新聞社が”談合”して、情報(ニュース)はタダという風潮を断ち切り、有料化に踏み切ってはどうか」ということである。

 談合という言葉は刺激的すぎるが、要は、日本語という狭いマーケットの中で、バラバラに情報を垂れ流し合っていても、広告収入で採算をとるのは不可能に近い。「Yahoo!」など巨大ポータルサイトへのコンテンツ販売も、安く買い叩かれ、莫大なネットの維持費を穴埋めすることはできない。まだ、新聞討が体力のあるうちに有料化に踏み切らなければ、手遅れになりかねないからだ。

 両氏も同感だとして、朝比奈社長は、ドイツの新聞社が同じようなことをやろうとしたが、たった1社が反対したために、できなかったという話をしてくれた。1社でも「協定」を守らず、無科配信を続ければ有料化はできないとよくいわれるが、そんなことはない。新聞の6割方は発表ものだから、新聞社お家芸の「記者クラブからの締め出し」をすれば、その社には情報が入らなくなる。共同、時事通信が配信しなければ独自取材をしなければならず、採算面でも追い込まれる。

 驚くべき話。あきれ果てて声も出ない。

 さて再び冒頭に紹介した元木氏の話に戻ろう。なんと驚くべきことにこの人は、記者クラブによる情報独占を楯にして、談合によってこの有料化戦略を成功させればいい、と主張しているのである。

 これはどういうことを意味するのか。たとえば具体的にシナリオを描けば、こういうことだ。

 被害者となるのは、まあどの新聞社でもいい。ウェブパーフェクトを掲げてソーシャルメディアやウェブの戦略を頑張っている産経新聞にしておこうか。

 ――朝日や読売、毎日、日経、そして共同通信時事通信が、なぜか同じ日に突如として「ウェブサイトでの記事の有料化」を発表する。新聞価格の値上げと同じで、「これは談合ではありません。偶然同じ日に偶然発表しただけなんです。私たちもびっくりしましたよ、他の新聞社さんも同じことをするなんて」と言い張る。

 しかし産経は、ロイター通信と同じように「私たちは他の新聞社のような談合はいたしません。今後もウェブでは記事を無料で読んでいただけるようにサービスを続行します」と高らかに宣言する。ネットユーザーたちは、大喜びだ。だいたい新聞社の記事の大半は官庁や企業の発表モノだから、ニュースソースはひとつあれば十分。これからは産経の記事にリンクを張っていこう。

 ところが数週間後、国内すべての記者クラブで突然クラブ総会が招集され、その場で産経新聞は脱会を命じられる。理由ははっきりしない。「クラブの和を乱した」とか「ルールに反する行為があった」とかそんな名目だ。「違反行為」の明確な内容は決して明らかにされない。

 そうして産経新聞は独自のニュースソースによってオリジナルの記事を書くことしかできなくなり、発表モノを報じることはできなくなってしまう。この結果、ウェブ上では無料のニュースはごくわずかしかなくなってしまい、みんな新聞社の有料サービスに申し込まざるを得なくなる。これによって新聞社の有料モデルはついに成功を収めた。良かった、良かった。そして産経もついに音を上げて、産経ウェブとiza!を有料化することを条件に記者クラブへの復帰を認められることになったのだった。

 ――と、元木氏が提案しているのはこういうシナリオになるわけだ。

 こんなバカげた話を書いている元雑誌編集者が、日本のメディア業界では「ネットのことがよくわかっていて、われわれの行き先を指し示すことができる数少ない人」として尊敬されているのである。だから日本のメディア業界は絶望的なのだ。

多少は佐々木氏によって誇張されている部分もあるとはいえ、記者クラブという情報の独占システムを利用して既得権益を維持しようと呼びかけているのは確かだろうな。
しかしまあ、こんな事を考えているような人物が、権力の監視だのジャーナリズムだのほざいているってのが救えない。むしろ笑えてくる。「新聞」や「雑誌」という媒体が不要だとは思わないが、今の「新聞社」や「雑誌社」も一度総選挙よろしく読者の審判を受けてぶち壊された方がいいんじゃないかとすら思えてくる。